事実は小説よりも奇なり

非日常的な日常を書いてます

灰色と黒

「今日の3限に授業でジャズの演奏をするのでよかったら見に来てください」という謎のメールが届いた。

それは筆者が大学1回生の時の話で、当時所属していた軽音楽部の先輩から突然上記のメールが届いた。

授業でジャズの演奏ってどういうこと??
意味不明だったので詳しく話を聞いてみると、その授業はなんでもいいからみんなの前で発表したら単位をくれるというのでジャズの演奏をすることにしたらしい。

その話を聞き、なんか面白そうに思ったので授業を見に行くことにした。

授業が始まると8組くらいの班がそれぞれに自分の特技を活かした発表をしていた。
先輩のジャズの演奏の他に漫才や演劇、事前に撮影したビデオを流したりなど、どの班も非常にレベルの高い内容で時間はあっという間にすぎ発表はついにトリを迎えた。

トリの学生を見た瞬間、今までの発表者とは違う何かを感じた。
今までの発表者は何人かで集まり班を組み、事前に準備した道具などを使い和気あいあいとした雰囲気で発表していた。
しかし、その学生はたった一人で何も持たずに堂々とした態度で教壇に仁王立ちしていた。

やがてその学生は「僕の高校時代は何もありませんでした」と自らの過去について語り始めた。

その異様な雰囲気を察したのか、教室は学生の話に皆無言で耳を傾けていた。

「僕は高校時代友達と呼べる人が一人もいなかった、部活にも入らず毎日放課後に本屋で立ち読みをして家に帰るそんな生活を繰り返していた。
そんなある日少しでもそんな自分を変えたいと思いポケットの中にハサミを入れて登校した。
そしたら少しだけ世界が変わって見えたような気がした」

今こうして文字に起こしてみると完全に危ない人だが、当時の筆者や一緒に授業を見ていた友達はそんな事は一切気にせず、ただただ彼の話を夢中で聞いていた。

「そして季節はすぎ、高校生活最後の学園祭の時期を迎えた。
今までの僕なら学園祭なんてまったく興味がなかったが、最後に何か高校生活の思い出が欲しいと思い、学園祭で何か発表したいと思った。
そこで毎日学園祭での発表に向けて毎日練習した。
だけど、残念なことに発表前の先生の審査でそんな発表は認められない。
ということで学園祭で何も発表できずに終わってしまい、何もないまま高校生活は終わってしまいました。
そこで僕は今日ここで、高校の学園祭で披露することが出来なかったそのネタを披露したいと思います」

そこまで語り終えると彼は深く息を吸って吐いた。
教室には再び異様な緊張感が走る。

数秒後彼はいきなり奇声を発し始めた。
声の高さを変えながら、声のリズムを変えながら「あーーあーーあーー」と約1分程叫び続けた。

叫び終えると「以上で発表は終わりです」と言い彼は席へ帰って行った。

「そりゃあ先生に反対もされるよな」と皆思いながら無言のまま授業は終わった。

個人的には最後の発表は好きだったんだけど、先輩からトリの学生だけ単位もらえなかったという話を聞いた時には、ものすごくなっとくしてしまった。